千葉さん渡航記録

2023.2.20-2023.3.31

2023.11.9-2023.12.18

インドネシアにおける約三カ月間の活動報告

~インドネシアの循環型山村から考える日本の持続可能社会~

千葉綺花

目次

1. インドネシアを取り巻く食品廃棄物問題

1-1. インドネシアの食品廃棄物量と現状

1-2. インドネシアの食品廃棄物処理

2. 循環型山村・ナガ村から考える持続可能な社会

2-1. ナガ村とは

2-2. ナガ村の食品廃棄物処理

3. アメリカミズアブを用いた食品廃棄物の資源化

3-1. アメリカミズアブとは

3-2. インドネシアにおけるミズアブ利用

4. インドネシアにおける実験・調査

4-1. アメリカミズアブの資源化効率実験

4-2. ナガ村とジョグジャカルタにおけるタニシの分布調査

5. 終わりに

6. 参考文献

1. インドネシアを取り巻く食品廃棄物問題

1-1. インドネシアの食品廃棄物量と現状

私は2023年2月20日から3月31日、11月9日から12月18日の合計約一か月半、インドネシアのパジャジャラン大学寮に滞在し、インドネシアの食品廃棄物問題について調査をしてきた。2018年時点で2億6千万もの人口をもつインドネシア[1]は、総食品廃棄物量が4800万トン、一人当たり年間食品廃棄物量は184kgにも及ぶ[2]。日本と異なりごみを分別する習慣がなく、道端にも構わずごみが捨てられている状況をよく目にした。滞在地の大学ではインドネシアで比較的涼しいとされていたバンドゥン付近だったが、それでも毎日27℃以上の気温があるため、野外に生ごみが放置されていると虫やにおいの被害が深刻だと感じた。

1-2. インドネシアの食品廃棄物処理

ごみ処理の方法も日本と全く異なる。インドネシアでは大きく分けて2種類の処理方法があった。

一つは埋め立てである。私はジョグジャカルタにある「TPST piyungan」に足を運び、現地の様子を見てきた。TPSTとはインドネシア語でTempat Pembuangan Sampah Terpadu

、埋め立て地を意味し、piyunganはジョグジャカルタの地名とのことである。ここにはジョグジャカルタ中のごみが集められ、分別されずそのまま積み上げられる。臭いや衛生環境も悪く、実際に私がここを訪れた次の日には、起き上がれないほどひどい倦怠感や声が出なくなるという症状が出た。周辺住民に飼われている牛達はこの中から生ごみを漁って食べ、その牛を後に飼い主が食べるらしく、管理状況が悪い現状を目の当たりにした。

もう一つは地域のごみ収集所「TPS 3R」による再利用である。政府からの支援を受けて各地域設置されたこの施設では、地域の担当者が各家庭のあらゆるごみを回収し、一か所のごみ収集所に集める。一部の生ごみは農作物の堆肥に、プラスチックは燃やされて壁や道路の補強に使われると聞いたが、実際は大部分のごみは無差別に積み上げられている状況であった。

2. 循環型山村・ナガ村から考える持続可能な社会

2-1. ナガ村とは

一方、パジャジャラン大学から車で約4時間、人里離れた山奥に位置する「ナガ村」という集落では、食品廃棄物も有効活用する循環型社会を今でも残している。

この村は実は地元の修学旅行生や外国人観光客などから人気であり、滞在中もよく小中学生が団体で来ているのを見かけた。村の入り口は比較的観光地化されており土産店や宿泊施設やカフェが存在し、スマホなどの文明機器も普通に使っている人が多い。しかし、そこから長い階段を下って村の中心部まで行くと、棚田と森林が広がる美しい別世界が広がっている。

この村は人口200人未満の小さな集落で、図のように集落が山と川に挟まれている構造である。山から引いた水は水田や住民の生活に使われたあと川へかえる。電気や文明機器は一切なく、稲作を中心とした農業でほぼ完全に自給自足の生活を行っている。宗教はイ

図1. TPST piyungan

図2. TPS 3R

スラム教とのことだが、女性は体を覆い隠すヒジャブを被らず、モスクの形もインドネシアの一般的にみられるものと少し異なる。彼らによると、イスラム教とナガ村の伝統的な文化が混ざり合った結果とのことだ。言語は基本スンダ語で、アクサラスンダという伝統的な文字がいたるところに彫られている。インドネシアはそれぞれの地域で特有の言語を持つため、同じインドネシア人でもスンダ人以外はスンダ語を全く理解できないらしい。家は竹や木でできた木造建築で、全民家で全く同じ形状をしている。夕日が差し込む方向を計算して家の中に光が入るように計算されていたり、火事などの緊急時にすぐ助けられるように、家の中が外から見ることができたりする作りになっている。住民はみな平等で利益は求めないという主義があったが、教育は望めば問題なく受けられるとのことで、近くには小学校もあり、大学に進学する人もいるとのことだった。実際にナガ村で出会った一人の男性は日本で数年仕事をしていたらしく、日本語を使って流暢に会話ができたことに驚いた。

一見閉鎖的な村かと予想していたが、外部者に寛容で好奇心旺盛、そして明るく穏やかな性格の人が多い印象を受けた。ガイドを頼む際は謝礼は日本円で約1万円、丁寧に村を案内してくれた。しかし、基本的に皆電子機器を持っていないため、ネットによる事前予約やホテルの宿泊予約が困難な点が悩みどころだ。

あれば

1kgあたり600ルピア、乾燥させた幼虫であれば40000ルピアという価格で販売されている。また、maggupのオーナーが所持する別のミズアブ企業でも、一週間あたり5~6トンの食品廃棄物を処理、1~2トンの幼虫を生産しているとのことで、規模感が日本とは桁違いの状況に圧倒された。2-2. ナガ村の食品廃棄物処理

ナガ村の食品廃棄物の有効活用を象徴する一つとして、伝統的なトイレ兼風呂場がある。竹でできた簡易な建物が池の上に設置されており、下の池には多くの魚が飼われている。つまり、糞便はこの魚の餌となる。同様に、食べ残しとして出た食品廃棄物はこの池に投げ入れられる。これらを食べて育った魚は住民の食卓に並び、その食べ残しとして出た食品廃棄物が池に投げ入れられる、といったサイクルが成り立っている。自給自足の食生活で食べる分しか作らず、食品廃棄物の量が一般家庭と比べて少ない傾向にあることも実際に見て感じた。ナガ村では食品廃棄物を有効活用するため、道端に捨てられるごみの量が圧倒的に少ない。プラスチックごみも出ることには出るが、ごみ箱やごみ捨て場が決められており、秩序が保たれた清潔な山村であると感じた。

3. アメリカミズアブを用いた食品廃棄物の資源化

3-1. アメリカミズアブとは

私は以上の視察を踏まえて、同じ形とはいかなくとも持続可能な社会の実現のために、食品廃棄物を活用する手段があるのではないかと考えた。その手段として今世界注目されているアメリカミズアブという昆虫に着目した。この昆虫はハエ目ミズアブ科に属し、主に温暖な気候の国に分布する。日本にも第二次世界大戦後に侵入してきた帰化昆虫として知られ[3]、野外で確認することもできる。アメリカミズアブは幼虫が家畜の餌に、糞は畑の肥料として使えることから、日本においては近年の飼料・肥料の高騰化対策として有効であると考える。

インドネシアは熱帯に位置し気温が適していることから、農家や企業で導入が進んでいる。日本でも当研究室でアメリカミズアブの利用を進めているが、気温が暖かい夏以外適していないことから未だに存在も知られていない現状がある。

3-2. インドネシアにおけるミズアブ利用

私は、滞在先のパジャジャラン大学にあるアメリカミズアブのスタートアップ企業「maggup」の存在を知り、企業へ聞き込み調査を行った。設立は2021年、従業員は学生を含む20名ほど、政府(ministry of technology in Indonesia)からの1億ルピア(約100万円)の支援を受けて企業された。屋内では食品廃棄物を餌として使った幼虫の育成、野外では成虫の交配用のケージが4つほど設置されており、高密度の飼育環境下で高効率に食品廃棄物(最寄りのTPS 3Rから回収)の資源化に成功していた。この企業では一日あたり約27kgの幼虫を生産しており、一日あたり500~1000kgの食品廃棄物を処理している。販売されている商品としては主に食品廃棄物を食べて成長した幼虫で、生きた幼虫であれば

1kgあたり600ルピア、乾燥させた幼虫であれば40000ルピアという価格で販売されている。また、maggupのオーナーが所持する別のミズアブ企業でも、一週間あたり5~6トンの食品廃棄物を処理、1~2トンの幼虫を生産しているとのことで、規模感が日本とは桁違いの状況に圧倒された。地元農家でもミズアブの利用があった現状を耳にした。ジョグジャカルタで有名な有機農家を訪ね、特有の農業や技術について聞き込み調査を行った際に、以前ミズアブを飼育したことがあると伺った。政府がミズアブの導入を進めていた時期があるらしく、一時期村の一部で共同のミズアブ飼育小屋があったとのことだ。鶏が多く飼育されており、家畜飼料として有効であったとある住民は言っていたが、現在は住民の関心がほかのものに移ったため飼育は停止されていると伺った。飼育は比較的簡単とはいえど、定期的に食品廃棄物を与えたり蛹を回収したりするなど手間はある程度かかるため、維持をするにはより簡易的なシステムを考える必要があると感じた。

ナガ村においても同様にミズアブの利用について聞き込み調査を行った。未だナガ村では認知が少なく利用もされていなかったが、現地でミズアブ幼虫を見せたところ、鶏の食いつきもよく、同様に魚への餌としても有効であることが分かった。住民の反応も比較的良く、「ナガ村は外界から遮断されている生活に満足はしているが、外部の者が持ち込む知識には興味があり、家畜の餌として使えるならぜひ導入したい」との意見を伺えた。ナガ村ではすべての家の軒下に鶏が飼われており、池にもたくさんの魚がいることから、ミズアブの需要は高いと感じた。実際にミズアブの卵を採取するためのトラップを軒下に設置し、一週間後に確認したところ卵が確認できたため、ナガ村でもミズアブの分布があり利用が可能であると考える。

4. インドネシアにおける実験・調査

本滞在では、以下の2つの実験・調査を行った。

4-1. アメリカミズアブの資源化効率実験

アメリカミズアブの利用が一歩進んでいるインドネシアと日本では何が違うのか、両国の食品廃棄物の違いに着目し実験を行った。

1週間あたりに家庭から出る食品廃棄物を、4つの国籍・滞在国別に収集した(①インドネシアに住むインドネシア人、②日本に住むインドネシア人、③インドネシアに住む日本人、④日本に住む日本人)。各国籍・滞在国ごとに特有の食品廃棄物がみられた。例えばインドネシアでは、滞在していた11月が旬だったためインドネシア人・日本人の廃棄物のどちらにもマンゴーが多く、国民的な野菜であるエシャロットの皮、インドネシアの食べ物に欠かせない唐辛子や、鶏肉の骨が多かった。唐辛子は辛さに慣れているインドネシア人であればすべて食べられるが、私を含む日本人には辛すぎて廃棄してしまった経緯がある。鶏肉に関しては、イスラム教徒が多いインドネシアでは豚肉の消費が少なく鶏肉が肉として主に食べられることが関係していると考える。日本であれば、豚肉を食べるのは一般的なため、消費期限切れの豚肉や、ちくわ、豆腐などが廃棄物として特有であった。日本に住むインドネシア人では、インドネシアのフルーツ(ロンガン)やエシャロットを取り寄せていることや、飲み物としてもよく食べられるアボカドの消費が多いこともこの廃棄物から見て取れる。

この食品廃棄物を細かく粉砕し、1容器200gごとに分配したものを5つ用意、それぞれに100gの幼虫を加えてインキュベーター内で管理し、1週間後に幼虫の個体重量と堆肥量を測定した。分析は一般化線形モデル解析を使用した。

結果として、野菜・果物・米をすべて、炭水化物・タンパク質をすべて含む処理区で幼虫重量が多く、野菜・発酵食品・魚肉製品をすべて、エネルギー(kcal)、炭水化物、脂質をすべて含む処理区で堆肥量が多かった。この結果から、特別一種類の食品廃棄物が影響を及ぼすとは考えにくく、バランスよく上記の成分を含むものを与えることが効率的であると考えられる。

4-2. ナガ村とジョグジャカルタにおけるタニシの分布調査

ナガ村とジョグジャカルタの有機農家への取材の際に、水田に生息するタニシの生育調査も行った。30分間、水田の畦道から目視で確認できるタニシを数えた。ナガ村では2023年12月6日、ジョグジャカルタでは2023年12月11日に採取した。

この結果、ナガ村では17匹のFilopaudina javanica、13匹Pomacea canaliculata、1匹のカワニナ(学名不明)、ジョグジャカルタの有機農家では4匹のPomacea canaliculataを採取した。ジョグジャカルタの住民曰く、ちょうど田んぼの水を抜いていた時期だったため少ないが、通常はもっと多く確認できるとのことだった。また、Pomacea canaliculataは調理して食べることも珍しくないという。

終わりに

二度にわたる滞在を経て、日本に留まっているだけでは得られない視点を多く学ぶことができた。ナガ村の循環型社会を学び、日本でどのように持続可能な循環システムを現代に構築していくか、そのカギがナガ村にあると感じた。また、アメリカミズアブの利用可能性が日本でもあることが実験から明らかになったため、日本での導入を広めていくとともに、ナガ村においてもアメリカミズアブの活用によって、さらなる持続可能な可能性があると考える。

7. 参考文献

1. BADAN PUSAT STATISTIK, 2019, 「Statistik Indonesia 2019」, Statistik Indonesia 2019 - Badan Pusat Statistik Indonesia (bps.go.id)

2. Bappenas, 2021, EXCLUTIVE SUMMARY FOR POLICY MAKERS FOOD LOSS IN INDONESIA, Executive-Summary-FLW-ENG.pdf (lcdi-indonesia.id)

3. 全国農村教育協会, 1999, 田中義弘、鈴木信夫 著, 「校庭の昆虫」